スマートホームにおけるユーザの快適度を考慮した省エネ行動支援手法

小倉和也 (0951026)


近年,エネルギー問題および環境問題に対する人々の関心が高まっている.これらの問題では,ユーザが省エネを達成したい目標値(以下,省エネ目標と呼ぶ)に対して,どの生活家電(以下,デバイスと呼ぶ)をどれだけ節電すれば目標を達成できるのか,また,複数のデバイスが稼働している際には,どれを優先的に節電することでユーザの快適性をできる限り高く保つことができるのかなどをユーザに具体的に示すことが有効な対策であると考えられる.

本発表では,ユビキタスシステムを活用した,ユーザの快適度をできる限り低下させない省エネ行動支援手法を提案する.まず,過去のユーザの行動履歴やデバイスの動作履歴,省エネ目標は与えられるものとする.その上で,省エネ目標を達成し,ユーザの快適度の総和が最大になるような,各デバイスの設定値を決定する問題を定式化する.この問題に対して提案手法では,各シチュエーション(読書や食事などのユーザの活動状態)において,使用される各デバイスに対する単位消費電力当たりの快適度の低下度合いを重みとして,重みの小さいデバイスほど消費電力の削減量を大きくする.これによって,快適度を高く保持しながら省エネ目標を達成する.さらに,提案手法で用いるデバイスの消費電力と快適度の低下度合いの関係を明らかにするために,実デバイスの消費電力計測に基づいて電力消費モデルを構築する方法と快適度アンケートに基づいて物理量と快適度の相関(以下,快適度関数と呼ぶ)を決定する方法を提案する.また,ユーザの体調不良などシステムの予期できない状況に備え,各シチュエーションでいくつかの選択肢から行動プランを選ぶだけで,ユーザの意思を尊重しながら省エネ目標に誘導するユーザインタフェースを提案する.

提案手法が省エネ目標を達成したとき,どれだけユーザの快適度低下を抑えられるのかを評価するため,一般家庭での典型的なデバイス使用シナリオを想定したシミュレーション実験を行った.実験には,実測に基づいて構築したデバイスの電力消費モデルおよびアンケートに基づいて作成した快適度関数を使用した.実験の結果,提案手法は本手法の適用前のデバイス使用状況に対して,平均快適度を14.47%低下させるだけで20%の省エネを達成できた.また,全てのデバイスに対する電力量を均等に削減する方法に比べて,省エネ目標達成時のユーザの平均快適度が34.64-44.84%大きいことがわかった.