衛星通信非線形伝送路における多値変調方式の伝送特性評価実験と改善法

大澤 嘉代子(0951020)


近年衛星放送のHD化や多チャンネル化の需要が発達し、 静止衛星を用いた衛星通信の大容量化が求められている。 そこで本発表では、変調方式の多値化と既存の増幅器を用いた送信電力の大電力化の 2つの方法から、衛星通信の大容量化の実現を考える。

変調方式の多値化は、増幅器の非線形領域の影響を受けて起こる信号の歪みに影響しやすいという問題がある。 大電力化を伴わずに多値変調を用いるには、増幅器の非線形領域に因る歪みの問題を解決しなければならない。 また、既存の増幅器を用いて送信電力の大電力化と通信の大容量化を実現するためには、 増幅器の利用範囲を非線形領域まで広げ、飽和利用するという方法が考えられている。 送信地球局の増幅器を飽和領域で利用することは、送信電力の大電力化と共に地球局の小型・低価格化というメリットに繋がる。 また、衛星中継器の増幅器を飽和利用することは、既存の衛星中継器を用いて大電力化が実現できるため、 静止衛星数の物理限界という問題の解決となる。 しかしこれも、送信信号が増幅器の非線形領域の影響を受けて歪むという問題がある。 以上から、衛星通信の大容量化を実現するためには、送信の際に 増幅器の非線形領域の伝送路に対する影響を軽減するために、歪を補償することが重要であると言える。

衛星通信非線形伝送路における多値変調方式の伝送特性の改善策として、 前置補償が検討されている。 これは入出力の差分ベクトルの逆ベクトルを伝送システムの先頭に加えるもので、 ある程度までの非線形領域まで補償が有効である。 しかし、非線形増幅器の飽和利用を実現するためには、従来の補償方法のままでは過補償現象等で効果が不十分である。

本発表では前置補償に重みを加えることで補償の最適化を図り、より増幅器飽和領域で有効となる補償方式を提案する。 そのため、増幅器非線形による信号の歪みを調査した実験結果を報告し、補償の必要性を確認する。 また、より最適な伝送路の改善に向けた提案方式を述べる。