結合部位予測とドッキング計算の組み合わせによるリガンド―蛋白質複合体構造予測

加藤 文彦(0851145)


多くの薬剤は生体内において、タンパク質と結合し、その機能を調節することで薬効を発揮する。 薬剤のようにタンパク質と結合する低分子(リガンド)がタンパク質のどこに、どのくらいの強さで結合するかを計算機で予測できれば医薬品開発に役立つ。 これまでにタンパク質の立体構造を用いたリガンド結合部位予測や、ドッキング計算等のリガンド―蛋白質複合体の構造予測の研究が盛んに行われてきた。 しかし、リガンド結合部位予測の結果からドッキング計算を行ったものはほとんどなく、複合体構造予測ではタンパク質表面において、ある程度リガンド結合位置が分かっていることが前提とされてきた。

そこで、本研究では結合部位予測を行った後、予測結果をドッキングに用いることで、タンパク質表面においてリガンドの結合部位が未知の場合でも対応できるような、高速のリガンド―蛋白質複合体の構造予測に取り組んだ。 川端により開発されたポケット検出アルゴリズムGHECOMと階層的クラスタリング、アミノ酸の進化的保存度を利用することで、蛋白質表面の結合部位予測を行い、予測された部位に Kuntzらによって開発されたドッキングプログラムUCSF DOCK 6.3を用いて、リガンドの位置と姿勢を計算し複合体構造予測を行った。

その結果、DOCK 6.3の結合部位予測手法(sphgen)と比較して、GHECOMを用いることで結合部位予測、複合体構造予測の精度が改善し、GHECOMが有効であることが示された。また、GHECOMのプローブに進化的保存度、階層的クラスタリングを用いることで結合部位の予測精度が向上した。 複合体構造予測を行った結果、クラスタリング手法の変更、進化的保存度の適用で予測精度は変化しなかったが、10倍以上の計算の高速化に成功した。