MRIシミュレータの開発においては、適切なMRI撮像パラメータに対するシミュレーション精度を改善しMRI断層像のコントラストを再現する、あるいはMR断層像生成に必要なパラメータとシミュレートされた断層像の信号強度の関係を理解することは重要な課題と言える。
本論文では、複数のエコーシーケンス(SPGRおよびSEシーケンス)による、撮像対象のモデルパラメータT1、T2とプロトン密度の推定方法を示す。そして、CuSO4水溶液による均質なファントムデータを対象として、3つのエコーシーケンス(SPGR,SEおよびIRシーケンス)におけるMRI撮影断層像の信号強度についてシミュレーション精度を検証する。まず、T1の推定はSPGRシーケンスの実測データに基づく、TR,TEが同じでフリップ角が異なる2種類のスライスデータを利用した方法と,2つ以上のスライスデータを使用する線型最小二乗法を利用した方法の,2つの方法を比較した。一方、T2とプロトン密度の推定は2つ以上のSEシーケンスの実測データにおいて実現した。撮像対象のモデルパラメータを推定し、様々なパラメータの組み合わせによるSPGR、SEおよびIRの三種類シーケンスの実測スライスデータとシミュレートされた断層像を比較することにより、信号強度についてシミュレーション精度を評価した。
検証結果では、短いTRあるいは隣接するフリップ角の組み合わせよるT1推定に対し,SEとSPGRシーケンスほとんどの場合は高い精度を達成できることを確認した。逆に、IRと少数なSPGRシーケンスの場合では誤差が確認された。その誤差を抑制するため、T1推定法の改良として線型最小二乗法を導入し、有効であることが確認された。T1の推定に最小二乗線形法を用いた結果より、SPGRとIRシーケンスで、シミュレーションの精度が大きく改善された。本研究に行った検証結果で、推定したパラメータの組み合わせおよび異なるT1推定法により、MRI撮影断層像の信号強度を精度よく再現することができた。これらの結果は教育用MRIにおけるパラメータと断層像コントラストの関連性を学習する際に有用である。