バーチャル大腸内視鏡のための症例に適応した内容物領域除去手法

若松 泰律 (0851132)


 大腸検診の手段において,X線CT画像のボリュームデータから再構成したバーチャルな大腸を検査するバーチャル大腸内視鏡が注目されている.検査前には,前処置として便や腸液を含めた大腸内の内容物を腸管洗浄液を用いて排出する必要がある.しかし,一度に大量の腸管洗浄液を服用する必要があり,排出するためのトイレ回数の増加による患者の負担や,腸管洗浄液を十分に摂取できず,前処置が不完全になる場合も発生する.加えて,腸管洗浄液を使用したことによって,腸管穿孔や,腸閉塞を起こして死亡した例が報告されており,患者に対する副作用による影響を考慮する必要がある大腸内の腸液や内容物はX線CT画像で障害陰影になるため,検査前に大腸内を空にする必要であるが,そのための内容物除去が患者に負担をかける.負担を軽減する手段として,撮影前の造影剤投与により内容物を強調したX線CT画像で構成されるボリュームデータに対して画像処理を適用し,内容物領域を除去する電子クレンジング手法が提案されている.電子クレンジングの課題として,以下の課題が挙げられる.第一の課題として自動で処理が行われることである.この理由として,強調される内容物領域のCT値は,撮影条件や造影剤,個人差により変動するため,固定のパラメーターを使用できず,手動でパラメーターを決定する必要があるためである.第二の課題として,画像処理後に内容物が残存しないことである.X線CT画像では,異なる領域の境界域でCT値が連続して変化するパーシャルボリューム効果が発生し,強調された内容物領域に対するCT 値の閾値処理のみでは,残存する内容物が発生するためである.第三の課題として,薄い腸壁を誤って除去しないことが挙げられる.その理由として,残存する内容物に近い特徴を持つ薄い腸壁を誤って除去すると,大腸が誤った形状となるためである.

 本研究では,CT値分布と勾配を用いて大腸形状を維持しながら,自動的に内容物領域を除去する手法を提案する.内容物領域除去に必要なパラメーターを自動で決定するため,大腸内空気の外周域におけるCT値の度数分布に対して判別分析を行う.パラメーターを決定した後,閾値処理により内容物領域除去をする.しかし,X線CT画像では異なる領域の境界でCT値が連続的に変化するパーシャルボリューム効果が発生することにより,閾値処理のみでは境界域に内容物が残存する.残存する内容物を除去するため,大腸内空気の外周域を候補として抽出し,周囲の環境から除去する対象を決定する.また性質が似ている真の腸壁を除去しないために,周囲環境との位置関係を用いることで,本物の腸壁を除去対象から除外する.

実験として,本手法を実データに適用した.実験結果より,本手法が内容物領域除去に有効である可能性が示唆された.