近年のオフィスや研究室において,入退室管理システムの導入が進んでいる. 入退室管理システムを導入している部屋では,入退室時に個人認証をしないと扉が開かない仕組みになっており,関係者以外の入退室を制限することが出来る. 個人認証の方法として,社員証や学生証にICチップを付与したICカードを用いる認証やパスワードがよく利用される. 最近では,他人のなりすましを防ぐために,個人の身体的特徴を利用したバイオメトリクスも増えてきている. バイオメトリクスでは,各個人の顔や指紋,静脈パターンなどが利用される. また,入退室管理システムの別の利用法として,個人認証の際に得られる入退室した人物の名前・ID や入退室時間のデータをログとして記録することが可能である. 入退室情報のログはデータを解析することにより,各個人の在室情報や入退室の頻度を得られるため,出席状況の調査などに利用できる. しかし,入退室管理システムには認証された人物が未認証者の出入を手引きする「共連れ」という問題がある. 共連れが発生すると,入退室管理をしている部屋のセキュリティが損なわれるだけではなく,未認証者に付いては入退室に関するログを残すことも出来ない. 結果として,ログを解析しても正しい入退室情報を得られなくなる. 共連れへの対処法として,センサや建造物を設置することで,出入口付近から認証する人物以外を排除する方法が一般的に採られる. しかし,部屋への入退室制限ではなく入退室時のログ取得を主目的とする場合にこの方法を採ることは,利便性の点から現実的でない.
本研究では,出入口に複数人居る場合の個人認証を許可し,共連れを検知した際には認証者とともに未認証者のログも残すことで,入退室者の利便性を損なわずに全入退室ログを取得する入退室情報記録システムを提案する. 提案システムは個人認証により入退室者のIDと入退室時間を取得する認証部と,共連れを検知し,未認証者の画像を取得する検知部から成る. また,提案するシステムはICカードリーダと距離画像センサ,可視光カメラによって構成する. まず,ICカードリーダでの個人認証によって扉が開いた際に,距離画像センサで撮影した距離画像から出入口の前に居る人数を検知する. そして,複数人が出入口の前に居る場合には共連れの意思があるとして,認証者と未認証者をそれぞれ特定する. 認証者については,ICカードから得られたIDと入退室時間をログとして残す. 未認証者については入退室の時間とともに,共連れを促した認証者のIDをログとして残す. また,ログを解析する際に未認証者の入室データと退室データを対応付けられるように,可視光カメラの画像から抽出した各個人の画像を残す.
提案した入退室情報記録システムを構築してログの取得実験を行った結果,未認証者の共連れ入退室を含む全入退室のうち90%のログを取得できた.