偏心度に基づいた人の把持力制御モデルの同定

向井 謙太 (0851121)


近年,ロボットハンドやシミュレーションを用いた,ユーザビリティ評価の自動化へのニーズがある.人にとっての製品の持ちやすさや使いやすさの評価をロボットハンドや シミュレーションが代行する場合,手の大きさや自由度,皮膚の弾性,触覚などのセンシング能力,発揮可能な力やその制御などの特性が人と同程度でなければならない.

これまで,ロボットハンドやシミュレーションを人に近づけるための研究や触覚センサの研究が数多く行われてきたが,人の把持力制御の模倣を試みた研究は少なく,ロボットハンドや シミュレーションによる人の把持力制御の再現は未だ実現されていない.

本研究では,人の手を模したロボットもしくはシミュレーションに適用可能な人の把持力制御モデルを構築することを目的とする.

人の把持力制御では,初期滑りと呼ばれる,弾性体と剛体の接触領域に局所的に発生する滑りを知覚することで,物体を把持していることが従来の知見として述べられている.

そこで,人の把持動作における接触面と接触力を同時に計測する装置を製作し,物体の引き上げと押さえ込みの二つの動作において被験者実験を行った.

計測で得られた接触面から画像処理を施すことで偏心度と呼ばれる初期滑りの量を導出し.入力を偏心度,出力を把持力とした伝達関数のパラメータをシステム同定を用いて推定した.

また,質量や動作の種類における伝達関数の適合率を比較することで考察し,結果として,複数の計測条件でのデータを混合して同定を行った複合モデルと呼ぶ伝達関数が,条件内のデータに対して 良好な再現性を実現した.

このことより,人の持ち上げによる把持力制御が一つのモデルで再現できる可能性を示した.

さらに,複合モデルを弾性体指を有するロボットフィンガに適用し,物体の持ち上げ実験を行った結果,質量の変化に合わせて把持力制御が行えることを示した.