局所座標系に基づく弾性体の大変形モデル

道畑 暁 (0851117)


医療技術の高度化に伴い,手術計画や臨床教育を目的として,コンピュータグラフィックス (Computer Graphics, CG)やバーチャルリアリティ(Virtual,Reality,VR)などの技術を応用した手術シミュレーションが 注目されている. 手術時の外科医の手技をシミュレートするには,弾性体である臓器の振る舞いを忠実に再現する必要がある.たとえば,腎臓を対象とした手術では,腎臓を持ち上げたりつまんだりすることによるひねりや曲げの大変形をシミュレートすることが求められる.弾性体の変形を高速に計算する手法として,線形のばね質点モデルや有限要素モデルが有名だが,ひねりや曲げを伴う大変形には対応しておらず,非線形問題に拡張した場合,膨大な計算時間がかかるという問題点がある. 手術シミュレーションにおいては,ひねりや曲げを伴う大変形においても体積が保存され,なおかつリアルタイムでの計算が可能な計算モデルが求められる.

本研究では,ひねりや曲げを伴う臓器の大変形をリアルタイムに表現可能な弾性体変形モデルの構築を目的とする.提案手法では,まず操作点に加わった外力を,モデルの押込・引張方向と回転方向に分解する.分解後の外力について有限要素モデルと,局所座標系に基づくメッシュ修正の手法で独立に求解する.回転方向の力が弾性体に及ぼす影響を局所座標系の回転量として記述し,それを線形に補間することで高速な変形の算出を可能とする.また,メッシュ修正の手法による変形に弾性体の振る舞いの特性を反映するため,曲げ剛性を表現可能にし,さらに座標系のスケーリングによって局所的な体積保存を達成する.

汎用PC上に一連のアルゴリズムを実装しした実験システムを構築し,サンプルデータ及び実測医用画像を用いた幾つかの検証を通して,弾性体の大変形が可能なことを確認した.ひねりや曲げを弾性体モデルに施した場合も,体積を保存したまま,自然な変形結果が得られた.また,対話操作に支障のない計算時間でのシミュレーションが可能であった.

提案方法が,これまで難しかった弾性体の大変形を対象とした手術シミュレーションや医用アプリケーションの実現に貢献することを期待する.