ユーザー協調型コンテキスト利用基盤の提案と応用

松山 拓矢 (0851114)


スマートフォンやモバイルネットワークの普及に伴い、 ユーザーのしたいことをいつでもどこでも叶え、欲しい情報を提供する情報サービスが利用可能な、 ユビキタスと呼ばれる環境が整いつつある。 ユーザーの日常生活に密着した情報サービスの利用がより一層増えるなかで、 ユーザーのサービスに対する要求に応えることが求められている。

ユーザーの要求を推測するために、ユーザーのおかれた状況を表すコンテキスト情報を収集することが必要になる。 コンテキストの代表例としては、時間、位置などが挙げられるが、コンテキストはこれらに限るものではなく、 ユーザーのサービス利用に対して影響を与えうるもののすべてがコンテキストと成りうる。

コンテキストの収集とその利用のために、さまざまなコンテキスト情報の収集技術が研究開発されている。 それらの技術では、観測範囲の広域化、新たな観測手法への拡張性、コンテキストからの要求推測などが取り組まれている。 しかし、それらの提案はコンテキストを観測するセンサー基盤の設置や、 収集するコンテキスト対象が予め決定されているなどの制約を持っているため、 いつでもどこでもコンテキストを利用するための基盤としては不十分である。

ユビキタス環境におけるコンテキスト利用を支援するためには、 ユーザーに付随するコンテキスト情報をいつでもどこでも収集して利用可能にすることが重要である。 そこで、私はユーザーの日常生活での情報サービス利用そのものが、 ユーザーのコンテキストや要求を含むものとして注目する。 情報サービスの利用は、 各ユーザー自身が自分で判断した結果である。 その利用情報には、機械的に付与されたコンテキスト情報やユーザーの要求が含まれている。 本研究では、この点に注目して、 従来のセンサー設置型や収集コンテキスト限定型の技術とは異なる、 ユーザー自身のオンライン行動からのコンテキスト情報の収集と再利用を可能とする手法を提案する。 提案では、 ユーザーの日常生活での情報サービス利用を対象とした、 コンテキスト収集を可能とする基盤を設計する。 提案の基盤を用いることで、さまざまなオンライン行動からのコンテキスト収集とその情報の再利用や、 本来別々のオンライン行動で表現されるコンテキストの統合的な利用が可能になる。

本研究では、 この提案に基づいたコンテキスト利用基盤を実装して評価した。 ユーザー増加が著しいコミュニケーションサービスであるTwitterを例として、 そのサービス利用からのコンテキスト収集部と、得られたコンテキストを応用する質問回答サービスを作成した。 これらの実装事例から、提案基盤におけるコンテキスト情報の取り扱いについて実験評価した。 実験では、約1,000人の被験者を集めて、そのサービス利用情報からのコンテキスト収集と応用が可能なことを示した。 さらに、他のサービスからの情報も組み合わせることで、取り扱うコンテキストの種類を拡張して、 新しい形の要求に応えることが可能になるシナリオについても事例を論じた。 これらの結果より、 提案する基盤が従来の基盤と比べて、 どのような特性をもつのかを議論した。