水中ワイヤレスセンサネットワークにおける 移動可能なアンカノードを用いた 低コストなセンサノードの位置推定手法の提案と評価

松本 啓司 (0851112)


近年,海洋調査などの目的のため,広範囲の海域に情報収集のための水中セン サネットワークを構築する技術が注目を集めている.センサネットワークでは イベントの発生場所や故障機器の場所を特定するため,各センサノードの位置 を求めることが重要である.しかし,水中では電波が減衰してしまうため, GPSのような電波を用いる手法により各センサノードが自身の位置を知ることは 困難である.

本発表では,水中センサネットワークにおいてすべてのセンサノー ドの位置を推定するために,水面を移動可能な船型の アンカノードを用いる方法を提案する. アンカノードはGPS受信機を搭載しており,自身の位置がわかると仮定する. センサノードは圧力センサを保持し,おおよその水深がわかるとする. センサノードを設置するために海面から投入した地点からある程度の存在しうる領域が導出可能と仮定し, アンカノードがセンサノードと通信できる海面上の領域(通信可能エリア)を導出する. 一般的に,水中での通信には音波を用いた通信を行う. アンカノードが通信可能エリアから海底のセンサノードと音波による信号の送受信を行い,信号の到着時間 差から各センサノードまでの距離を測定する.測定した距離とセンサノードの 水圧センサの情報をもとに,三辺測量を用いてセンサノードの位置の推定を行 う. 全てのセンサノードの位置を推定するためには,各センサにつき通信エリア内の3点の海面上の測定ポイントでの 測定が必要である. 提案手法では,距離測定ポイントを最適に再配置し,アンカノードの移動および測定にかかるコストの最小化を行う. 全ての測定ポイントを巡回する経路の導出にはLin Kernighan法を用い,コストを最小化する測定ポイントの決定には共役勾配法を用いる. 水面からの距離測定値や水圧センサの値には誤差が含まれているため,それら誤差の範囲内でセンサが存在する可能性がある地点を全て含む球体を想定し, その球体の中心を推定位置とする.

評価実験では,距離測定ポイントの位置と位置推定誤差の関係を調査した. その結果,距離測定ポイントのなす三角形は正三角形に近いほど高精度に位置推定できることを確認した. そして,距離測定ポイント間の距離をある程度離すことで,推定誤差を軽減できることも確認できた. また,提案手法を実装し,シミュレーションにより位置推定のコスト や位置推定の精度について評価を行った. センサノードが50個,距離測定ポイントの最大角度を90°という制約を適用すると, 提案手法を適用する前後では,位置推定コストを13.6\%削減することができた. 提案手法では,センサノードの位置を平均で64.1mの精度で推定することができた. また,センサノードの推定位置は半径が最大で419.0mの球体の内部に収めることができた.