ヒト視覚野の脳活動パターン解析による運動残効知覚の解読
堀川 友慈 (0851105)
錯覚や,記憶の想起,夢など,外界から直接的な刺激が与えられない場合であっても,刺激が与えられた時と類似した鮮明な主観的意識が生じることがある.このような現象が生じている時の脳活動を調べることは,主観的意識の神経相関を明らかにすることに繋がる可能性を秘めている.視覚の錯覚の一つである運動残効は,一定方向に運動している対象を見続けた後,静止した対象を見た際に,実際には動いていないはずの対象が,順応した方向とは逆方向に動いているように知覚される現象である.従来の運動残効モデルの多くでは,運動刺激知覚時に観測される脳活動パターンと運動残効知覚時に観測される脳活動パターンが,同一のものであるという予測を与えていた.本研究では,機能的核磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)と脳情報復号化手法を用いて,刺激方向判別器と残効方向判別器を構築し,運動刺激知覚時と運動残効知覚時の脳活動から各知覚条件における運動方向の復号化を行った.さらに,刺激方向判別器によって運動残効方向の判別が可能であるかを調べた.その結果,刺激方向は視覚野の広い領域から判別が可能であり,残効方向はV3A/Bの活動のみから判別することが出来た.また,刺激方向判別器による残効方向の判別では,V3A/Bの活動を用いた場合においてのみ高い精度で判別することができた.本研究で得られた結果により,運動残効知覚とV3A/Bの活動が密接に関連していることが示唆された.