非侵襲的脳電気刺激による認知運動課題パフォーマンスの向上
鈴木 裕輔 (0851060)
2つの刺激(S1,S2)が非常に短い時間差で連続して提示され,それぞれについて別々に反応する場合,その反応時間が遅延する (psychological refractory period; PRP).PRPは,S1,S2のそれぞれに対応する適切な反応選択の処理が要求されたとき,より顕著に観察され,ヒトがマルチタスクを遂行する際の,反応選択処理容量の限界を示す実験パラダイムとして知られている.一方,近年のニューロイメージング研究から,反応選択処理への運動前野背側部(dorsal premotor cortex)の関与が示唆されている.また,近年のニューロエンハンスメント研究からは,電気刺激によって脳神経系を直接的かつ非侵襲的に修飾し,脳情報処理過程の促通を可能にする技術が提案されている(例えば,transcranial direct current stimulation; tDCS).
本研究では,tDCSによる神経修飾がPMDの反応選択処理を促通することで,PRP効果が減弱する可能性を示唆した.この効果は,PRP課題において必要とされる反応選択数が多いほど,かつ,S1,S2の時間差が短いほど顕著であった.本研究は,tDCSによるPMDへの神経修飾が,ヒトが並列に認知運動課題を遂行するために必要な反応選択処理容量を向上させる可能性を示唆した最初の研究である.