適応型非線形歪み補償機能を有する干渉キャンセラの研究

-衛星通信キャリア重畳方式への適用-

久保健太 (0851037)


衛星通信の需要の増加に伴って、衛星通信の大容量化・通信速度の高速化への対応が求められている。 地球の赤道上を周回する静止衛星の数は有限で静止軌道スペースが減少していることから、衛星通信における周波数利用の向上が解決の鍵となる。 周波数利用効率を高める手段として検討されているのが、衛星通信キャリア重畳方式である。 この方式は、自局の送信信号と相手の送信信号を同一の周波数帯域で伝送するため、周波数利用効率が最大2倍向上する。 ただし、同一の周波数帯域を用いるが故に自局の送信信号が干渉(不要波)となる。 よって信号を受信する際に自局のレプリカ信号を生成し受信信号から減算することにより相手局からの希望信号を得ることができる。

従来の研究では衛星に搭載されている中継器の非線形増幅器の歪みの影響を考慮せず、すべての伝送路が線形であるとされていた。 しかし、実際の衛星には SSPA(Solid-State Power Amplifier)、TWTA(Traveling Wave Tube Amplifier)のような増幅器が含まれているので、これらによって起こる非線形歪みの影響を考慮し、何らかの対策を施す必要がある。 本論文では、特に非線形歪みの影響を受けやすいVSAT(Very Small Aperture Terminal)システムに衛星通信キャリア重畳方式を適応した時の非線形歪み補償付き干渉キャンセラを提案する。 降雨などの影響によって生じる衛星中継器の動作点の変化にも対応させた適応型の干渉キャンセラであり、その検討・評価を計算機シミュレーションにより行った。