リアルタイム協調作曲のためのコミュニケーション支援システム
木村昌樹 (0851032)
近年,DTM (Desktop Music) ソフトウェアによる音楽創造活動が盛んに行われている.DTMソフトウェア (以降では簡単化のためDTMとする)とは,計算機上の楽譜にユーザが音符を配置することで作曲(楽譜データを作成)し自動演奏するためのソフトウェアである.DTMを利用した作曲は,現実世界の楽器演奏によるオーディオ録音とは異なり,複数の楽器の楽譜を音符一個単位で編集することができ,個人で何度でも修正と確認ができるという長所がある.このため,作曲の効率化や不足楽器の補完などを目的として作曲初学者からプロミュージシャンまで幅広いユーザに利用されている.加えて,作成した楽譜データをネットワークを介してやりとりすることで,空間の制約を超えた複数人での協調作曲が可能であるという長所がある.特に,DTM初中級ユーザは特定の楽器パートの作曲知識は有しているが他の楽器パートの作曲知識が不足している場合が多く,不足する知識を複数人のユーザが互いに補い合うことで個人の作曲知識のみでは不可能だった楽曲を作曲可能にするという点で,DTMを利用した遠隔地間での協調作曲は有用である.
しかし,協調作曲においては対面/非対面,DTM使用/非使用に関わらず,作曲者間での楽曲イメージの共有には困難が伴う.作成しようとする楽曲に対するイメージには曖昧さが含まれることに加え,楽曲イメージを伝達するために用いる言葉(言語)にも曖昧さが残るためである.
現状のDTMを用いたオンラインでの協調作曲では,作曲者らはメールやIRC (Internet Relay Chat) を用いて楽譜データを共有し,楽譜データに対する意見や要望を言語的に伝達し合うのみである.結果的に,楽譜データの修正や微調整,代替案の作成を何度も繰り返す必要が生じ,作曲者間で納得のいく楽譜データができ上がるまでには多くの時間と労力を必要とする.
そこでこれらの問題を解決することを目的として,本研究ではDTMを用いたオンラインでの協調作曲におけるコミュニケーション支援システムMarbleを提案する.Marbleは協調作曲における作曲者間のコミュニケーションを支援するシステムであり,複数の作曲者がリアルタイムに楽譜を共同編集することができる.Marbleの楽譜エディタの有用性を検証するために行った比較実験の結果,
協調作曲に要する時間はMarble利用時の方が従来システム利用時に比べて平均6分50秒程度短縮できることを確認した.また,1分あたりの楽譜編集回数は有意な差は見られなかったものの,Marbleを利用した協調作曲では,従来システム条件よりも作曲イメージをユーザ間で容易に共有することが可能になるため,余分なインタラクションを抑制するという効果があることが分かった.