照応関係には,上の例からも明らかなように,直接的な指示の関係である直接照応(「麻生首相」と「あの人」など)と,間接的な指示の関係である間接照応(「麻生首相」と「夫人」など)があり,さらに文章外のモノやコトと照応関係にある外界照応がある.したがって照応解析では,照応詞の指し先を同定する先行詞同定に加えて,照応詞が直接照応か間接照応か,または外界照応なのかを分類する照応範疇分類の2つの処理を行う必要がある.しかしながら,先行研究では直接照応と間接照応がそれぞれ独立に研究され,照応範疇についてはほとんど論じられていないため,これら2つの処理をどのようにモデル化するかは自明ではない.具体的には,(i) どのように先行詞同定モデルを作成するか,(ii)どのような情報が照応範疇の分類に有効か,(iii)先行詞同定モデルと照応範疇分類モデルはどのように組み合わせられるべきか,明らかになっていない.
そこで本稿では,日本語文章内の「指示連体詞(この,その,あの)+名詞」の形の照応詞を対象として,これら3つの問題について調査を行った.調査の結果,(i)直接照応と間接照応で別々の手がかりを用いて先行詞同定モデルを作成すべきであること,(ii)先行詞同定モデルによって同定された最尤先行詞候補の情報が照応範疇分類に役立つこと,(iii)先行詞同定モデルにより先に最尤先行詞を選択し,その出力を照応範疇分類モデルの入力とする構成が有効であることがわかった.