複数物体追跡におけるヒトの適応的な注意配分モデル

矢野 有美 (0751132)


動画や画像など視覚情報の情報量は膨大であり,その情報の解釈の可能性は無 数に存在するため,全ての可能性を実時間でしらみつぶしに探索することは原理 的に不可能である.人間はリアルタイムで精度良く頑健に視覚情報を処理 することができる.それを可能にする鍵の一つは,視覚における注意の制御 であると考えられる. この注意に関して今日まで様々な研究がなされており,古くか ら単一の対象に注意を払う単一注意のモデルが考えられてきた. しかし,人間は同時に複数の物体を追跡することが可能であるという心理学研究 が発表されて以来,複数の対象に注意を払う複数注意の 心理モデルが考えられるようになったが, そのモデルを説明できる数理モデルは提案されていない. そこで本研究では,視表速度の推定分散の関係で注意を切り替える注意制御モデルを 提案し,制限された計算能力で正確性,頑健性を兼ね備えた複数物体追跡が 可能であることをシミュレーション実験により示す. また,提案モデルをヒトの視覚モデルとして検証するために ゴール達成に注意の切り替えを必要とする競走パラダイムを考案する. そしてヒトの眼球運動計測によって,注意制御モデルの検証を行う.