手術シミュレーションにおける剥離表現を目的とした弾性変形モデル

林哲洋 (0751093)


 現在,コンピュータグラフィックスや手術シミュレーションなどの分野において,弾性体の力学的特性をリアルタイムに表現することが求められている.しかし,弾性体の複雑な振る舞いを表現するためには,計算量の問題から,リアルタイム性を維持することが難しく,また,モデルの記述自体も困難である場合が多い.例えば,手術シミュレーションにおける臓器剥離の表現のためには,物体の破壊現象を取り扱う必要があり,また,生体膜のシミュレートには大変形を扱う必要があることから,リアルタイムな表現が難しいとされている.
 本研究では,これまでモデルの記述や計算量の問題からリアルタイムで表現することが困難であった膜構造体に対する剥離表現を目的とし,体積保存を可能とする弾性変形モデルと,それをリアルタイムで表現するための計算の枠組みを提案する.従来,手術シミュレーションなどで用いられてきた有限要素法などの力学変形モデルとは異なる,初期のモデルの特徴を保存しながら,形状を修正するため用いられてきたメッシュ編集式に,弾性エネルギーに関する項を追加することで,モデルの弾性力や大変形に対応し,また,メッシュの次元数に依存しない変形が可能である弾性変形モデルとして提案する.計算量を抑えるため,共役勾配法による反復計算を行い,GPUコンピューティングにより解を高速に導出する.
 本発表では,提案モデルの評価,検証のために汎用PC上に一連のアルゴリズムを実装した実験システムを構築し,実験を通して,モデルの変形形状や膜構造に対する剥離表現,また,提案方法によるモデルの高速な更新を確認したため,その結果について報告する.