SIMO-ICA とバイナリマスクを用いた頭部回折の影響に頑健な両耳聴覚補助システム

高藤良太 (0751069)


本発表では,ユーザが聞きたい音源信号をその空間的特性を保ったままで選択して聞き取ることのできるような,高臨場聴覚補助システムの構築について述べる. このシステムの実現のために,観測信号のみを用いて特定の音源信号を推定する,ブラインド音源分離(BSS)技術を用いる.

従来より,分離性能の高精度化と高速化の双方を目指した多段型 BSS 手法を利用したシステムが既に提案されている. しかしながら,聴覚補助システムにはどのような音源配置であろうと動作することが求められるにも関わらず,従来のシステムではユーザの頭部回折の影響により,特定の音源配置でしか動作しないという欠点があった. そこで本研究では,両耳補聴器として必要な機能を実現するために,人間の頭部回折の影響を考慮して,Single-input multiple-output(SIMO)モデルに基づく独立成分分析(SIMO-ICA)と,代表頭部伝達関数(HRTF)と SIMO モデルに基づくバイナリマスク(代表 HRTF に基づく SIMO-BM)を組み合わせた,新たな 2 段 BSS アルゴリズムを提案する. 今回新たに提案した手法により,SIMO-ICA の学習の高速化,安定化が可能であり,さらに空間的特性が保持された SIMO-ICA の出力に含まれる分離誤差成分を,音源配置に関係なく効果的に除去が可能である. 実験結果より,提案法は従来法と同程度以上の音質を保ったままで,分離性能及び空間的特性の保持能力において優れた性能を実現することが示された.