運転者に対する交通安全支援のための指向性アンテナおよび車車間通信を用いた歩行者の位置追跡手法

澤悠太 (0751056)


本研究では,歩行者の位置を高い精度で特定し運転者に提示することで歩行者の交通安全支援を行うことを目的とした, 指向性アンテナを搭載した複数車両の協調による歩行者位置追跡方式を提案する. 提案手法では,歩行者が定期的に発する固有の ID を持つビーコンを,車両にて指向性アンテナを用いて受信し,到達方向および距離を計測する. その際の測定誤差が正規分布に従うと仮定し,歩行者の存在範囲および範囲内の各地点における歩行者の存在確率を推定する. 推定精度の向上を目的として,各車両において推定した歩行者の位置の情報を車車間通信により他の複数車両と交換し, 歩行者の位置ごとの存在確率の重ね合わせを計算する. さらに,歩行者がどの方向に移動しているかを推定するために,各歩行者のビーコン時系列から得られる推定結果をもとに歩行者の移動軌跡を推定する.

本論文では,上記を実現するため,まず 安全確保のために歩行者検知が必要となる対象場面を特定し,指向性アンテナを用いた各地点における 歩行者の存在確率を求めるための確率モデル, 存在確率の重ね合わせの方法および推定した情報を車車間通信を用いてリアルタイムに交換する方法を提案する. 次に,車車間通信を用いて各歩行者の移動軌跡の 推定を行うプロトコルを提案する.

提案方式の有効性を評価するため,ネットワークシミュレータ QualNet にてシミュレーション実験を行った. その結果,車両が歩行者を検知してから実際に停止するまでの間に,同一歩行者のビーコン信号を 15 回以上受信可能であることが確認できた. 次に,受信ビーコン信号による測定結果を用いて歩行者位置を推定した結果, 車両1 台での測定誤差 10.68 メートルを,車車間通信を用いることで, 1.49 メートルに改善できた. また,歩行者の移動軌跡推定精度について, 歩行者の移動方向を運転者が十分に把握できる精度が得られることを確認できた.