衛星通信は従来より災害時や航空・船舶での重要な通信手段であるが、近年は通信に用いる周波数帯域を確保することが困難となってきている.衛星通信は通信電力も限られているため、これまでの通信方式を用いて通信容量拡大や通信品質を向上させることは非常に難しい.この問題に対し、衛星キャリア重畳伝送システムが提案されている.衛星キャリア重畳システムは最大で周波数利用効率を2 倍にすることができるため、その実現が期待されている.本システムでは、従来別々な周波数帯域を用いてたインバウンド信号およびアウトバウンド信号を同じ周波数帯域を用いてを使用しているため、受信信号から不要信号をキャンセルし所望信号を得る必要がある.衛星キャリア重畳システムを実現させる手法として、不要波復調方式、EMF 方式、MCC方式が提案されている.本報告書では衛星一往復時間を測定するEMF 方式とMCC 方式に注目し、各々の手法についてシステム実用化を目標としたシステム構成提案および検証を行った.EMF 方式では、外乱による周波数、シンボルタイミング、信号レベルの変動に十分耐えられるよう、ビット幅補償機構および制御ループフィルタのモード設定などの提案を行った.EMF方式のシミュレーションの結果、キャリア重畳しない場合と比較しBER 特性劣化が0.5dB ほどであったことから、EMF 方式の実用性が確認できた.また、MCC方式については全体のシステム構成の提案を行い、MCCが高レベルの変調信号に付加された場合でのMCC の実用性について検証を行った.シミュレーションおよび理論計算の結果から、計算時間を長くすればするほど測距の誤り率が小さいことが分かった.実際に想定しているシステムでは、誤り率を0.05 以下にするためには約1.0sec の演算時間が必要となる.また、MCC は信号干渉や信号レベル変動が大きい場合でも動作することが確認できた.以上の結果から、EMF 方式は比較的外乱の小さな環境で使用するのに適しており、MCC方式は外乱が大きい環境で使用するのに適していると考えられる.