筋電位信号を利用した「力み」伝達システムの開発

黒澤 慎也 (0751047)


 人は日常生活において,手を使った様々な作業(手技)を実現している. 手技は手の動きだけでなく,指の柔軟さといった適切な筋の使い方が求められる. ある手技を訓練者が熟練者から習得するには,動作のポイントを口頭で教示を受ける,動きを見真似するなどが一般的であるが,熟練医の術具の操作など,複雑な手技を学ぶには多大な労力を必要とする. 一方で,こうした手技における対象の動きや硬さといった触覚情報を正しく伝えることができれば,効果的な技能伝達が期待できる. そこで,バーチャルリアリティの分野において,触覚情報の伝達に関する研究が数多く行われている. しかし,従来の研究では,手の動きといった目標軌道の伝達に留まり,指先の状態の伝達に関して充分な研究はなされていない.
 本発表では,手技において重要な指先の把持力とコンプライアンスを「力み」と定義し,力みを効果的に伝達することが可能な提案システムについて説明する. 提案システム実現のために,指先の屈筋と伸筋の筋電位を計測し,その組合せから指先の力みを推定する筋電位計測システムを設計, また,計測した筋電位に基づき,指の状態を目標の状態へと誘導する提示力モデルの考案をし,上記二点を実装したアプリケーションシステムを構築した.
 そして,屈筋の筋電位に基づいた力を提示することによる把持力の伝達実験より,提案システムによって提示される力を支援情報として用い,目標とする把持力を知覚できることを確認し,提案システムの有効性を確認した. さらに,屈筋と伸筋の二つの筋電位を利用した書道における筆運び中の力み伝達実験より,提案モデルによって,筆運び中の力みを目標の状態へ誘導することが可能であることを確認した.