肺の呼吸変形解析のための有限要素モデル

山本 好美 (0651136)


年々高齢化が進む中,肺疾患での死亡率は著しい増加傾向にある.各症例において呼吸運動の際の力学特性を定量化することができれば,診断や治療を行う際の新たな指標として活用できると考えられる.したがって,正常及び疾患肺の呼吸性運動の理解,解明のために肺のモデル化や呼吸変形シミュレーションに関する研究が多数報告されている.

これまでにも肺のモデル化や呼吸変形シミュレーションに関する研究は多数報告されている.しかし,呼吸時の変形シミュレーションには物理則の考慮や解析に要する計算コスト,個々の症例データの適用と評価などが課題となり,物理則に基づいた呼吸性運動の解明まだなされていない.特に肺が有する粘弾性特性や生体内部で生じている肺‐胸郭間の相互作用は複雑で,そのモデル化と解析が望まれている.

本研究では,肺の呼吸変形解析のための有限要素モデルの開発を目的とする.特に肺の呼吸に伴う動特性をシミュレートする粘弾性モデルを構築し,肺機能評価の指標の一つである圧-容量曲線の再現を目指す.また,生体内部では肺と胸郭間に力学的な相互作用が働いていることに着目し,その滑り現象をモデル化する.幾つかの検証を通して構築モデルが,実験系で測定された実測値や生体内部での肺の振る舞いを精度よく近似することを確認した.本発表では呼吸時の肺の動特性を反映した粘弾性モデリング手法と生体内部における肺と胸郭・横隔膜間の相互作用を記述した呼吸変形モデルについて述べ,シミュレーション結果と考察について述べる.