変形に対応した実時間ボリュームシェーディング・シャドウイング

矢野 哲 (0651129)


近年,計算機性能の向上に伴い,ボリュームデータを用いたシミュレーションが増加している. そのシミュレーション結果のボリュームレンダリングを用いた可視化も増加しており, ボリュームデータを変形させた結果を高精度かつリアルタイムに描画することが求められている. 対象を立体的に描出し,形状を認識しやすくするためにはボリュームシェーディング,ボリュームシャドウイング(陰影処理)が必要不可欠である. シミュレーションにおいて,対象に変形を加えるなど,時間変化するボリュームデータに対して適切なシェーディングを達成するためにボリューム勾配の変化を扱う必要が生じる. また,ボリュームデータを用いたシャドウイングは,光が物体の密度によって物体中で減衰し暗くなる現象と考えることができ, 対象を変形させた際に,光源と対象の位置関係および物体の密度を考慮して正確に光の減衰を実時間で記述する必要がある.

 本発表では,ボリュームデータに対して任意の変形結果を可視化する際に,変形に応じたシェーディングおよびシャドウイングをそれぞれ実時間で達成するための方法を提案する. 変形前と変形後において,ボリュームデータを覆う形状データの頂点ごとに,頂点廻りの場を記述する正規直交行列を導出し, それぞれを変換する行列を勾配の変化と近似し,GPU 上で頂点間の変換行列,すなわち勾配の変化を補間することによって, 変形に対応した高速なボリュームシェーディングを実現する. また,変形ごとに光源の方向から見て不透明度を累積計算するためのレンダリングを行い, FBO( Frame Buffer Object )と呼ばれるバッファを用いたオフスクリーンレンダリングによって不透明度が累積計算されたボリュームデータを作成する. それを各ボクセルにおける減衰とみなし,環境光の照射による減衰のみの補正も考慮に入れることにより,ボリュームセルフシャドウを生成し,現実感の高い描画を実現する.

 幾つかのサンプルデータを用いた変形シミュレーションを行うことにより,提案手法を用いて実時間で変形に対応したシェーディングおよびシャドウイングが達成され, ボリュームデータの形状認識が向上していることが分かった.本発表では,ボリュームデータを用いて,変形結果を描画する際に,実時間で物体の変形に応じて陰影の変化も考慮したうえで描画する手法と,その描画結果と評価を述べる.