分散仮想環境に映像および非同期のコミュニケーション機能を取り入れたコラボレーション支援システム

松田 智 (0651116)


インターネットを通して遠隔地にいる人々が協調して作業を行うためのシステムが提供されている. このような作業を円滑に行うため,表情やしぐさなどの非言語情報(以下アウェアネス情報)を効率良く伝達することが重要である. また,現実空間での対面コミュニケーションでは,相手との位置関係がコミュニケーションにおいて重要な役割を果たす. 現在,テレビ会議システムが広く利用されているが,テレビ会議では,空間におけるユーザの位置関係に基づく情報伝達ができない. 一方,Second Life など,インターネット上の仮想世界サービスはユーザの位置関係に基づくコミュニケーションが可能であるが, これらのサービスは匿名性やゲーム性を重視しており,アウェアネス情報の伝達という点においてはそれほど効率が良いとはいえない. また,仮想空間内の活動が長期に継続する場合,メールのような非同期のコミュニケーション手段があれば便利である.

本発表では,コラボレーション環境に適した機能を盛り込んだ分散仮想環境システムを提案する. 提案するシステムは,(1) 現実世界のような自然なコミュニケーションを可能にするため, ユーザの位置に応じて自然に会話グループを形成し,それに基づいてアウェアネス情報を伝達できる, (2) 複数のグループにより進められる大規模なコラボレーション活動を効率化するため, 仮想空間の異なる場所の状況を同時に把握し,さらに複数の会話グループに同時に参加することができる, (3) 活動が長期にわたり会話したい相手がログオフしているような場合でも用件を伝えておくことができるように, 仮想空間においてアウェアネス情報を含んだ非同期の通信をすることができること,を目的とする. これを実現するため,(1) ユーザの音声・映像によりアウェアネス情報を伝達する. その際,仮想空間での位置関係に応じてアウェアネス情報の通信を制御し,ユーザにとって重要な情報のみを提示する. (2) アバタの分身を仮想空間の複数地点に配置し,複数の分身からの視点を得ることで 仮想空間の離れた場所で進行している活動を同時に把握することを可能にする. (3) アバタの分身には非同期通信機能を持たせ,ユーザが都合の良い任意のタイミングで 複数の会話グループとコミュニケーションできるようにする.

これらの機能が協調作業を効率化するのに有効であるかを検証するための評価実験を行った結果, 視覚情報が重要な役割を果たす協調作業において,仮想空間に映像機能を付加した場合, 映像機能がない場合と比較して59% の時間で作業が完了した. また,インストラクタの助言が重要な役割を果たす複数グループによる協調作業において, 分身機能と非同期通信機能を付加した場合,これらの機能がない場合と比較して73% の時間で作業が完了した. このことから提案するシステムが協調作業を効率化するのに有効であることが分かった.