格子点オブザーバを用いた移動体の自己位置推定

福田 寛之(0651106)


移動体の自己位置推定の技術は移動体を制御する上で重要な技術である. 移動体の自己位置推定法は大別するとロータリーエンコーダや加速度センサなどの内界センサを用いるデッドレコニングとGPSやカメラなどの外界センサを 用いるスターレコニングの2つに大別される.

スターレコニングは,計測誤差が累積せずほぼ一定の精度で計測できるが,計測周期が長く計測値の分散が大きい. 一方,デッドレコニングは計測周期が短く分散は小さいが,横滑りなどにより計測誤差が累積するため移動距離とともに計測誤差が大きくなる. これらの問題を克服するために,センサフュージョン技術が盛んに研究されている.

拡張カルマンフィルタは代表的なセンサフュージョン手法であるが,誤差分散行列のモデル化が難しく,たとえばセンサ特性の微妙な変化により誤差 分散行列が変化した場合には性能が劣化しやすいという問題があり,理論,実用の両面から問題点が指摘されている.

この問題を解決するために,誤差分散行列を必要としないセンサフュージョン手法として,初期状態オブザーバを用いた移動体の自己位置推定法が 提案されている.しかし,この手法は,決められた範囲で移動体が移動する場合には有効であるが,移動体がどの程度移動するかを前もって 定められない場合には位置推定ができなくなる可能性がある.

この,移動範囲が限定されているという問題を解決するために,本論文では初期状態オブザーバを拡張した格子点オブザーバを用いた移動体の 自己位置推定法を提案する.提案手法の自己位置推定精度は移動体の移動範囲によらず,計算量は初期状態オブザーバと比較してそれほど 大きくなく,拡張カルマンフィルタよりも十分小さい.しかも,移動体の移動範囲が有限であるような実験においても,初期状態オブザーバを用いた 自己位置推定法よりも良好な結果が得られる.

本論文では代表的な自己位置推定法について説明し,初期状態オブザーバの概略と問題点について紹介する. つぎに格子点オブザーバを用いた自己位置推定法を提案する.コンピュータシミュレーションにより,移動体に直線運動をさせた場合に初期状態オブザーバ の推定誤差が発散することを示し,格子点オブザーバの推定誤差は0に収束することを示す.最後に実機実験により提案手法の実用性を検証する.