独立成分分析によるブラインド音源分離に基づく オーディオオブジェクトの定位感操作

原口 雄基 (0651101)


本発表では, 独立成分分析 (ICA) によるブラインド音源分離 (BSS) に基づく 新しい音響信号の定位感分析法および操作法を提案する. 現在の音響分野において, 音響信号内の各オブジェクトに対するエフェクト処理を可能にするシステムの開発が望まれている. 本研究では, オーディオオブジェクトの定位感を個別かつ自由に操作できるシステムの開発を目指す. 複数の音源が混合されたマルチチャネル信号のみが利用できる場合, 特定の音源の定位感を操作するためには, 各音源がマルチチャネルに到るまでの混合系を推定する必要がある. そこで本研究では, ICAに基づくBSSに着目する. 従来のBSSでは, ICAにより生じた歪を, 分離の逆システムを用いる事により, 各分離出力の空間的情報を復元する形で補正できることがよく知られている. しかしこの補正法では, 信号の歪補正と空間情報復元が同時に行われ, 定位情報の分析法としては不十分である.

この問題を解決するため, ICAによるBSSに基づいた 新しいオーディオ信号の定位感分析法および操作法を提案する. 提案法では, 従来のICAによるBSSの処理を 歪のない音源分離過程と定位感付与過程に分割することで, 歪のない各音源の定位情報をフィルタとして抽出する. また, 抽出した定位情報を加工することによって, 各音源の定位感を自由に操作することが可能となる. さらに, 提案法における音源分離過程の設計に改良を加える改善法を提案する. 改善法によって, より欠損の少ない定位情報を抽出することが可能となる. 最後に, 通常のBSS問題と異なり, 提案手法は任意の数の音源から成るステレオ信号に対して適用可能であることを示す.

本発表では, 提案手法の有効性を検証するために行った4つの主観評価実験の詳細と結果を報告する. 実験1では, 2音源から成るステレオ信号を用い, 提案法により抽出した定位情報に歪が含まれないことを示す. 実験2では, 2音源から成るステレオ信号を用い, 提案法により抽出した定位情報を加工することで, 各音源に対する個別かつ自由な定位感操作が可能であることを示す. 実験3では, 改良を加えた提案法によって, より欠損の少ない定位情報を抽出できることを示す. 実験4では, 3音源から成るステレオ信号を用い, 音源数がチャネル数を上回る場合においても, 各音源に対する個別かつ自由な定位感操作が可能であることを示す. 各実験の結果より, 提案法は任意の数の音源で構成される音響信号に対して, 有効的な定位感分析および定位感操作が可能であると確認された.