歩行安定性に対する円弧脚形状の効果 -線形化ポアンカレ写像に基づく検討-

野口 慎 (0651093)


これまでの2足歩行研究の成果として, ASIMOやHRP-2等が開発され, 2足動歩行を実現している. この2足動歩行は, ZMP法によって実現されている. ASIMOやHRP-2等の登場という事実から, 2足歩行を実現するという技術的な 側面においては, おおむね, 解決の方向に向かいつつあるようである. しかしながら, より自然で高効率な歩行動作の獲得を目指して, 近年, 受動歩行の研究が大変盛んに行われている. 受動歩行とは, モータ等によるトルクを使わず, 傾斜面を重力のみによって歩き下る現象 である. この現象は, 脚がコンパスの形をした2リンクロボット(コンパス状モデル)を対象 として検討されることが多く, これを対象とするのは歩行現象を簡単化して扱うことができるからである. このように, 受動歩行に注目が集まっているという事実は, 2足歩行実現のための技術的側面のみならず, 実現する歩行そのものに注目が 集まってきていることを意味している. さて, その受動歩行研究の中でも, 特に, 足部が点状になっているコンパス状モデルの 線形化解析に基づいた受動歩行の安定化機構に関する理論的考察は重要である. 一方, 実際上の設計や非線形モデルによる検討では 円弧脚形状(コンパス状の脚先に円弧状の足部を有している脚形状)が歩行安定性に大きな効果 を持つことが示されている. 本研究では, 円弧脚形状モデルの安定性を, 解析的に導出できる 線形化ポアンカレ写像の立場から検討し, 円弧半径がそれぞれの因子に与える影響を検討した. このポアンカレ写像に基づく安定性解析手法は, 連続的に変化する歩行現象を, ある着地点からその次の着地点までの離散的な現象に置き換えて, 歩行の安定性を考えるために利用される. さらに, 線形化ポアンカレ写像に基づく検討の妥当性を確認するために, 非線形モデルから数値シミュレーションによって求めたポアンカレ写像と, 受動歩行可能な初期値領域の探索結果を示し, これらとの比較を行った.