Closed-form 2 次統計量 ICA と nonclosed-form 高次統計量 ICA を統合した高速ブラインド音源分離

橘 健太郎 (0651064)


本論文では,高速に動作する音響信号処理を実現するために, 独立成分分析 (ICA) に基づく高速ブラインド音源分離 (BSS) 手法を提案する. ICA に基づく BSS 手法とは,音源信号が互いに独立であるという仮定の下,観測さ れた混合信号のみを用いて,音源信号を推定する技術である. しかし,従来の ICA に基づく BSS 手法では,反復による分離行列の最適化を行う必要があ り,性能が不十分であったり収束が遅いという問題がある. また,実時間処理に応用する際に,特に収束時間の遅さや ICA の学習に必要な計算コス トが大きな問題となる.

この問題を解決するために, 2 次統計量に基づく ICA (SO-ICA)の closed-form 解と nonclosed-form 高次統計量に基づく ICA (HO-ICA) を併用した 3 種類の高速 BSS 手法を提案する. まず,SO-ICA の closed-form 解を nonclosed-form HO-ICA の初期値に用 いる手法を提案する (提案法 1). この手法は,比較的程度の良い状態から HO-ICA の学習を始めることが出来るため, 計算コストが大幅に削減され,高速に分離性能を向上させることが出来る. 次に,提案法 1 のさらなる効率化を実現するために, nonclosed-form HO-ICA の反復学習における学習帯域の選択による高速化手法 (提案法 2) を提案する. また,提案法 1 の更なる分離精度向上のために, 確率密度関数 (PDF) 推定を利用した高速化手法 (提案法 3) を提案する. これらの手法は,closed-form SO-ICA によってある程度分離された音源信号の統計的性質に 基づいて,性能の向上を図っている.

本論文では,提案法の有効性を実験により示す. 実環境を模した2音声分離実験の結果から,提案法1は従来法と比べ,あらゆる音源 到来方位の組合せに対しても高速に収束することを確認した. また,提案法 2 が提案法 1 よりある分離性能に高速に達することを確認した. さらに,様々な雑音環境において.提案法 3 が提案法 1 より 高速に収束することを確認した. 以上の結果より,提案法が音響信号分離の高速化,高精度化に関して 有効であることを確認した.