衛星通信用P-P形伝送信号重畳方式における不要波キャンセラの構成

名前 高道 慧(0651059)


衛星通信において,通信トラヒック増大への対応が求められている.しかし静止軌道スペースは制限されているため周波数有効利用が課題となっている.周波数利用効率を大幅に改善する手法として,伝送信号重畳方式が検討されている.この方式では同一周波数帯域上で送受信を行う通信システムを利用する.このため受信信号には相手局からの希望信号に加え,自局の送信信号が干渉波として重畳されている.希望信号の抽出には,干渉波のレプリカを生成し,受信信号から減算する信号キャンセラが必要になる.

レプリカ信号は自局の送信信号に衛星一往復分の遅延を与えて生成する.衛星一往復時間は約250msecであるが,静止衛星も微小に動くため一定ではない.またレプリカ信号と受信信号のタイミングがわずかでもずれると一定のレベルの電力が残留誤差として発生する.よって本方式では高精度に衛星一往復遅延時間を測定する手法が求められている.

 本論文では,既存のP-P形システムにおいて適用可能な信号重畳伝送システムを提案する.P-P形システムではレプリカ生成に衛星一往復時間を高精度に測定し,不要波のキャンセルを行う.またP-P形システムの信号重畳方式では希望波と不要波のレベルがほぼ同一であり,レプリカのタイミング決定は非常に低C/Nで行わなければならない問題がある.そこで本研究では低C/Nで動作可能な拡張マッチドフィルタ(EMF:Extended Matched Filter)を用いた高精度な遅延測定を提案する.また不要波のキャンセルにはカルマンフィルタの原理を用いる.この提案手法の有効性を計算機シミュレーションにより検証し,EMFによる同期確保と希望信号の抽出を行うことによりP-P形システムに適用可能であることを示した.