様々な分野でワイヤレスセンサネットワークが広まる中, 省電力に重点を置いた,IEEE802.15.4と呼ばれる新しい短距離無線通信規格が注目を集めている. このIEEE802.15.4の上位層プロトコルとしては,非IPプロトコルであるZigBeeなどが代表的であるが, 6LoWPANと呼ばれるIPv6プロトコルについてもIETFで議論されている. これは2007年10月にRFC4944と勧告したまだ新しい規格である.
しかしながら,以前よりIPスタックはセンサのような計算資源の乏しい環境には適さないといわれ続けており, 現在でもワイヤレスセンサに対してIPスタックを実装する試みは少なく, ほとんどの場合で非IPプロトコルが使われている.
本研究の目的は,実際にIPv6を用いた小規模ワイヤレスセンサネットワークを構築し, ワイヤレスセンサにおいてもIPが有効であることを示すことである. 6LoWPANを用いて,そのオーバーヘッドの少なさを確かめることができれば, ワイヤレスセンサでのIP利用も,ますます進むのではないかと考えられる.
今回6LoWPANを実装する中で,既存実装の問題点を解決するために, 6LoWPANに適したメモリバッファ制御機構を提案する. これらは,固定長メモリバッファを用いた制御, 最適な固定長バッファサイズの検討,ビーコンを用いたバッファに基づく通信制御などから構成される. そして提案を元に6LoWPANスタックを実装し評価を行った.
結果,依然実装上の改善点はたくさん残っているものの,メモリバッファ制御機構は有効に働き, IPv6を用いた通信でも性能低下は見られず,IP利用の妥当性を検証することができた.