クリッピング法の改良によるOFDM信号のピーク電力削減手法に関する研究

木村 聡 (0651031)


近年、無線通信技術の発達により高速通信への要求が高まる一方、 周波数資源は逼迫しており、周波数利用効率の改善は大きな課題となっている。 その中でOFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 方式は、 周波数利用効率が極めて高いこと、 山やビルの反射が存在するマルチパス通信路でも比較的安定した 通信が可能であることから、 ディジタル放送、IEEE802.11a/g/n、WiMAXをはじめとして さまざまな通信システムに応用されている。

しかし、OFDMの大きな欠点の1つとして、送信信号のピーク対平均電力比(PAR: Peak-to-Average Power Ratio)が大きいことが知られている。 PARが大きいと、送信時に増幅器で線形増幅を行う際に電力効率の低下を招く。 すなわち信号が大きなPARを持つ場合、増幅器の入力バックオフを大きくとらねば 増幅器の非線形性の影響を避けられず、送信信号にひずみが生じ、 電力の帯域外輻射を招く。 増幅器を通過した後に帯域外輻射を除去するフィルタを適用することは 困難であるから、隣接チャネルへの干渉が大きな問題となる。 そのため入力バックオフを大きく取らざるをを得ず、増幅器で熱として放射される 電力の割合が増え、電力の浪費につながる。

この問題を解決するためには増幅前に予め信号のPARを下げておくことが有効であり、 そのための種々の方式が提案されている。 その中でも、クリッピング&フィルタリング(CAF:Clipping and Filtering) 方式はピークを単純にしきい値でクリップし、発生した帯域外輻射成分を 帯域制限フィルタリングにより除去するという簡単な構成であり、 既に用いられている応用システムにも簡単に適用可能なピーク抑圧法として 知られている。

しかしながら、CAFはクリップ後の帯域制限により 削減したピークが再び現れる問題を有している。 その改善のために、繰り返しCAFを適用する手法 などの工夫が検討されているが、計算量の増大を招く欠点がある。

そこで、本稿ではピーク再発のしくみを考慮に入れ、 効果的にピークの再発を抑圧できるよう高いピーク成分は 深くクリップするようにクリッピング関数を改良したディープクリッピングを提案する。

提案法をOFDM送信システムに実装して計算機シミュレーションを行い、 通常のCAFに比べて計算量の増加をわずかに抑えながら、 提案法が3回繰り返しクリッピング&フィルタリング 方式と同等のピーク抑圧性能を達成することを明らかにした。 また、信号品質を表すEVM(Error Vector Magnitude)が10 % 以下という制約を満たす 所要PARを求め、通常のクリッピングよりピーク電力を0.4 dB程度低く抑えられる ことがわかった。