衛星中継増幅器の非線形性が信号重畳方式の伝送特性に与える影響

浦谷 剛史 (0651018)


 近年, 通信の大容量化, 通信速度の高速化に伴い衛星通信の用途が増加している. しかし, 通信衛星に用いられる静止衛星は地球の赤道上を周回しておりその数は有限であるため, 衛星通信における周波数の有効利用は大変重要な課題である. そこで, 周波数利用効率を向上させるため, VSAT(Very Small Aperture Terminal)システムによる伝送信号重畳方式が検討されている. 伝送信号重畳方式では, 相手局が送信する信号(希望波)と, 自局が送信する信号(不要波)を同一の周波数帯域で伝送するため, 不要波は希望波にとって干渉となる. 従って, 相手局が送信した希望波と自局が送信した不要波(干渉波)の間に十分な電力密度差があることを利用し, 干渉波の再生と除去を行う干渉キャンセラが必要になる.

 しかし, 過去の検討は系が線形であることを想定して行ったものであり, 衛星に搭載されている中継器の非線形増幅器による歪の影響は十分に考慮されていない. 実際の衛星伝送系には非線形増幅器が含まれており, この非線形増幅器の歪の影響について考慮する必要がある. 特に, 希望波と干渉波の2信号が非線形増幅器に入力された場合, 2信号間の相互変調歪, 及び混変調により特性が大幅に劣化する可能性がある.

 そこで本発表では, 増幅器の非線形素子が干渉キャンセラの特性にどのような影響を与えるかを検討し, 衛星中継器の動作点を選ぶことにより, 干渉キャンセラが非線形系においてもうまく動作することを, 計算機シミュレーションによって明らかにする.