放射線動体追尾照射に関する研究〜治療計画支援シミュレーションとその高速可視化手法〜

川島 礼子 (0551201)


 近年、放射線治療ががんの有効な治療法の一つとして注目されている。放射線治療においては腫瘍細胞に集中して放射線を照射し、正常細胞を温存することが有効であり、副作用の軽減にも繋がる。しかし、肺腫瘍の場合は呼吸性移動があるため、腫瘍に集中して放射線を照射することが困難であるという問題がある。先端医療センターにおいて現在開発中である放射線治療装置は、放射線を発生させる加速管にジンバル機能が備わっており、治療用X線を照射する照射ヘッドを自由に振ることができる。その特性を利用して、腫瘍を追尾しながら放射線を照射する動体追尾照射が望まれている。
 本研究では肺腫瘍に対する動体追尾照射のための治療計画支援を目指し、肺の呼吸変形シミュレーションとその結果を高速にDRR(Digitally Reconstructed Radiograph:ディジタル再構成X線撮影像)として提示する手法の開発を目的とする。肺の呼吸変形シミュレーションでは肺を弾性体として扱い、有限要素法に基づく変形解析を行う。CTデータをもとに肺の形状モデルを作成し、複数の境界条件を与えることによって肺の呼吸変形を表現する。各境界条件については、与える部位、変位量、位相差などを柔軟に設定でき、治療計画ではX線直接撮影像における腫瘍位置と比較しながら実際の呼吸性移動を再現するためにシミュレーションパラメータを調節する。また、シミュレーションの結果表示の際に従来のDRR生成法を用いると、計算量が大きくなるため高速表示には適さない。そこで、スライスベースボリュームレンダリングの手法を応用することにより変形シミュレーションの高速表示に対応したDRRの高速生成法を提案する。
 幾つかの機能評価及びシミュレーションの試行により、提案手法では高精度で肺腫瘍の呼吸性移動をシミュレート可能であることが分かった。本発表では提案手法の詳細とその検証結果について報告する。