可動式ヘッドアップディスプレイによるインタラクティブ作業支援システム

吉村 康弘 (0551135)


近年,工業製品の生産現場において,市場競争の激化という背景から,多様化する顧客ニーズに対応するために製品のカスタマイズ性, 生産コストの削減,品質の均質化が非常に重要となっている.一方,2007年問題と呼ばれる熟練層技術者 の大量リタイアにより,生産現場を支える技術者の絶対的な不足が懸念されており,次世代の作業者への早急な 技術伝承が求められている. しかし,技能の高い人材を作業現場から教育現場へ充ててしまうことは,全体の作業効率を低下させてしまうことにも繋がるため, 作業を教える人材の確保は容易ではない.

作業者自身が作業内容やノウハウを能動的に得るためには,作業手順の書かれた紙媒体のマニュアルを参照し, その内容に従い作業を進めていくという工程により技術の習得が行われてきた.しかし,作業工程を進めていく上で, ページをめくる動作や,作業対象とマニュアル間の情報の対応をとる作業を行う必要があり, それらの動作が作業効率の低下やヒューマンエラーの誘発を引き起こすという問題がある.

これらの問題点を解決する方法として,本研究では可動式ヘッドアップディスプレイを用いたインタラクティブ作業支援システムを提案する. 従来,ヘッドアップディスプレイは,環境戦闘機のコックピットや自動車の操縦席といった視点位置の変動が少ない場面において, 環境中に固定して配置し,作業者の視界と重ねて作業指示情報を提示する出力装置として用いられてきた. しかし,本研究では,ヘッドアップディスプレイを可動式の形態にして利用することを提案する. このことにより,作業内容に対して,作業者自身が適切な位置に自由に動かすことができるという柔軟性を持たせることができるため, 作業内容や作業空間に対応した利用が可能となる. さらに,可動式ヘッドアップディスプレイに指先の接触を用いた入力機構を付加することで, 教示マニュアルなどのディジタル化された情報を,特別な訓練をせずに直感的に扱うことができるというアクセシビリティを提供することができる. 提案する手法を用いることで,作業者が非拘束な状態で視線方向を変えずに教示情報を得ることが可能となるだけでなく, 作業者の入力から作業者の状態を汲み取り,適切な情報を提示することで,作業の理解を補助を行う作業支援システムの構築が可能となる. 試作したシステムを用い,可動スクリーンに対する投影位置精度,指先位置検出精度,作業効率について検証し, 工業製品の生産現場への適用について考察を行なった.