制限酵素の認識配列におけるゲノム戦略

山倉健(0551127)


バクテリアは外来の遺伝子の侵入を防御するシステムとして制限酵素システムを所有し、 修飾酵素により自他のゲノムを識別するということが多くの研究より明らかにされている。 すなわち、制限酵素認識部位をメチル化するシステムにより、所有する制限酵素による自らの染色体を切断することから守るとされている。 しかし、バクテリアのゲノムも自らの制限酵素により塩基配列が切断されるという事実も報告されている。 バクテリアにおいて自ら所有する制限酵素の認識配列をゲノムから減らすことが、 所有する制限酵素による切断からゲノムを守るための重要な因子であることが考えられる。 そこで、ゲノムの全塩基配列が決定されている371種のバクテリアを対象に、 所有する制限酵素の認識配列数がゲノムにおいて抑制されているか否かを統計解析により検討した。 はじめに、REBASEの中から、認識配列が既知の123種の制限酵素を解析の対象に用いた。 それぞれのバクテリアが所有する制限酵素の総数421について、 ゲノムにおける認識部位の数と塩基組成を考慮した統計的理論値をもとにG統計量を用いて個々の制限酵素の認識配列の数が、 細菌ゲノム(373種)において統計的理論頻度に比べて多いか少ないかを検討した。 その結果、323の制限酵素についてはゲノムにおける制限酵素の認識部位の数が制限酵素認識配列のゲノム上での統計的理論値よりも低いという結果が得られた。 すなわち、71% (= 309/436)のゲノムについては制限酵素による切断部位が統計的理論値より低く抑えられているという結果が得られた。 このことは、ゲノムにおいて自ら所有する制限酵素の認識部位を減らすことにより、 制限酵素による切断から自らのゲノムが保護されていると解釈される。 また、認識配列特性頻度を用いて、細菌をホストとするファージのゲノムとの関連を調べる。