マルチチャネル音場再現における時間区間を用いた温度補正処理の高速化手法

矢井 友樹 (0551124)


本論文では,マルチチャネル音場再現における温度補正処理に要する演算量を大幅に削減した手法を提案する. マルチチャネル音場再現システムでは,室内伝達特性の影響を打ち消す逆フィルタの設計が必要不可欠である. ところが,実環境では室内伝達特性は室内環境の変動によって時々刻々と変化するため,固定係数の逆フィルタを使用する場合,再現音が劣化する. 温度変動による影響を補正する手法として線形伸縮処理を用いた温度補正法が提案されている. しかしながら,この手法はインパルス応答の伸縮処理および推定処理における偏微分に膨大な演算量が必要となる.

この問題を解決するため,処理の対象となるインパルス応答を時間区間で分割し,個別に処理した後に繋ぎ合わせることにより,従来と同程度の補正精度を有したまま,かつ伸縮処理および推定処理における偏微分に要する演算量を削減する手法を提案する. 実環境データを用いたシミュレーション実験の結果,提案手法は補正精度を劣化させることなく,インパルス応答の伸縮処理に要する演算量を従来の10分の1程度に削減することができた. また,推定処理における偏微分に要する演算量についても,補正精度を劣化させることなく,従来の9分の1程度に削減することができた. これらの結果より,提案法は温度補正処理の高速化に対して有効であることが確認された.