周波数領域ICA と分離逆フィルタを用いた 音響信号の圧縮符号化法

三橋 禎 (0501121)


本発表では,独立成分分析 (ICA) を利用した新しい音響信号の圧縮符号化法 を提案している. 近年オーディオコンテンツの多チャネル化が進み,増加した伝送量を削減するた めの信号圧縮技術が求められている.従来の非可逆圧縮符号化の代表的な例とし て,MPEG-1 Audio Layer-3 (MP3)や,Advanced Audio Coding (AAC)等が挙げられ るが,インターネットにおけるストリーミングやワンセグメント放送など狭帯域での 放送形態においては,さらに高圧縮で伝送できる圧縮手法が望まれる. 特に,チャネル間の冗長性を利用して多チャネル音響信号の圧縮を実現する手法として, Binaural Cue Coding (BCC) が挙げられる.BCC はフィルタバンクに基づいて区切られた各帯域ごとのスパース性 を仮定し圧縮を行うが,$2$種類以上の音源が混在する信号ではこれが成り立たない ために音質劣化が生じるという問題がある.

この問題を解決するため,本研究では ICA を利用した新しい音響信号の圧縮手法 を提案する.ICA は,事前情報を用いずに混合された信号を各音源信号へと分離 する技術である.提案手法は,音源分離を行うことで,信号間のスパース性が明確化させ, 圧縮符号化を行う. また,時間周波数グリッド毎にスパース性が成立しているかどうかの判定機構を 設け,成立していない部分は多チャネルのまま伝送することにより,音質の劣化 を抑える.伝送した分離信号の復元については,ICA によって生成される分離逆フィルタを 用いる事で元の信号を復元する事が可能である.

本発表では,提案手法の有効性を検証するために,$4$つの実験を行っている. 実験 I では,分離性能の向上と共に提案手法の音質が改善される事を確認し, 提案手法の音質向上が ICA によるものである事を示す. 実験 II では,提案手法に用いる窓掛け処理による音質改善を確認し,窓掛け に最適なフレーム間のオーバーラップを決定する. 実験 III では,コンパクトディスクからの 信号を用い,提案手法が一般的な音響信号に対して有効である事を示す. 最後に,実験 IV で従来手法である BCC との比較実験を行う. 実験により,全ての音源数条件において提案手法は従来手法よりも音質歪みが少ない事を 確認した.また,主観評価実験を行い,提案手法は従来手法よりも音質が良い事が示された.