運動タスクを用いた階層ベイズ脳電流源推定法(VBMEG)の比較検証

大迫 政徳(0551024)


ヒト非侵襲脳計測において、時間分解能、空間分解能は重要な要素である。その理由は、神経活動は電気活動であり時間がミリ秒オーダで変化し、かつ、神経活動は神経細胞レベルで行われるので空間がマイクロメートルオーダとなるからである。現在のヒト非侵襲脳計測装置として、EEG , MEG ,fMRIが代表的である。しかし、これらの計測装置にはそれぞれメリット、デメリットが存在する。EEG/MEGはミリ秒(ms)オーダで計測ができるので時間分解能は良いが、センサ数が高々200チャネル程度であるのでセンチメートル(cm)オーダの計測となり空間分解能が低い。また、fMRIはミリメートル(mm)オーダでの計測ができるので空間分解能は比較的高いが、血流の変化を見ているので秒オーダの計測となり時間分解能が低い。 EEG / MEGの時間分解能に優れた点とfMRIの空間分解能に優れた点を組み合わせることで時空間分解能に優れた推定が可能な階層ベイズ脳電流源推定法(VBMEG)が考案されている。VBMEGはシミュレーション上で非常に優れたパフォーマンスを挙げているが、実データではまだあまり検証がされていない。 本研究では、実データを用いてVBMEG解析を行い、その推定パフォーマンス精度の検証を行った。検証実験として、過去の生理学的知見が比較的多い自発的右第二手指伸展運動を行った。右手指伸展運動時のMEGは、対側に、EMG onsetを基準として0ms付近で運動誘発反応が見られ、約100ms後に運動による感覚フィードバックが見られることがよく知られている。また、補足運動野に関しては、EEG / MEG研究では約2000msから200ms前に活動が見られる傾向が多いと言われている 右第二手指伸展運動時のMEGとfMRIを計測し、それらのデータを用いてVBMEG解析を行った結果、対側運動野に含まれる電流源と対側感覚野に含まれる電流源がmmオーダで、かつ、msオーダで分離することができた。また、運動準備に関わるとされる同側補足運動野の電流源でもonsetより約200ms前付近から強い反応が見られた。これらの解析結果は過去の知見と良く一致する また、従来の推定法としてMinimum Norm推定、LORETA、Wiener推定との領野間(運動野、感覚野、補足運動野)平均電流比較も行った結果、VBMEGでは運動野と感覚野で活動が分離できた。、従来法では運動野、感覚野の活動が分離できなかった。 以上の結果からVBMEGは実データを用いても優れたパフォーマンス精度を出すことが示された。