慣性計測装置と外界センサの非線型オブザーバを用いた融合による自己位置推定

上野山 雅史 (0551016)


移動する物体の位置を把握することは重要な問題であり,自己位置推定とよばれ古くから研究が行われている. 通常,位置推定では複数のセンサの測定値を融合し,お互いの欠点を補うようにして推定値の精度を高める. 本研究で対象とするセンサは,慣性計測装置(加速度センサとジャイロセンサの組み合わせ)と外界センサ(GPSやカメラなど)である. 慣性計測装置を扱う利点としては,移動体に依存しないことや小型・安価・高精度のMEMSセンサが開発されていることが挙げられる. センサを融合する過程はセンサフュージョンと呼ばれ,一般的な手法に拡張カルマンフィルタが挙げられる. この手法は推定値の誤差分散を最小化するという長所を持つが,大域的安定性の保証はない. また,設計パラメータが多く,計算コストが大きいため実装に手間がかかる. 一方,非線形オブザーバを用いたセンサフュージョンも提案されており,この手法では大域的安定性を保証できるという長所がある. また,拡張カルマンフィルタと比べて設計パラメータが少なく,計算コストが小さいため実装が容易である. そこで本研究では,非線型オブザーバを用いた位置推定について扱う. 主要な結果としては,まず慣性計測装置と外界センサに対して非線型オブザーバを用いた2次元における位置推定の基礎式を示した. そしてそれが大域的に安定であることを示し,シミュレーションにより有効性を確認した. さらに応用例として,二つの実際的な手法についても考えた. 一つは慣性センサの計測値に含まれるバイアスが位置推定に与える影響が大きいため,その誤差の影響を考慮した手法である. 慣性計測装置の厳密なキャリブレーションは大きな手間であるが,この手法によりその手間を抑えることができる. もう一つは姿勢角センサを用いずに位置推定を可能にする方法である. この手法により,自己位置推定システムから姿勢角センサをなくすことができ,コスト面での削減が期待できる. 最後に,慣性計測装置とGPSを実車に搭載して行った実験により提案手法の有効性を検証した.