MIPやNEMOといった移動透過性を実現する技術によって、 携帯端末からインターネットを利用する際にも、 通信を遮断することなく環境に応じたデータリンクの利用が可能になった。 移動透過性は、 データリンクの切り替え時に起こるIPアドレスなどの変化を、 上位層から隠蔽することで実現しているが、 データリンク特性の変化までは隠蔽することができない。 そのため、通信経路の特性に輻輳制御を最適化するTCPでは、 その急激な変化によって発生する通信経路特性と輻輳制御パラメータの不整合によって、 通信性能の著しい低下を招く。 本研究は、 移動体通信環境におけるTCPの通信性能の改善を目指すものである。 まず、リンク特性の変化によって輻輳制御に不整合が起きることを示す。 次に、この不整合を解消するため、 利用するデータリンクに応じて輻輳制御のパラメータを設定する手法を提案し、 設定のタイミングと設定値を決定する戦略について議論する。 さらに、これらの手法を実現するための機構の設計と実装をおこない、 実験用の疑似環境、および、実際の移動体通信環境に適用することで、 その有効性を評価した。 その結果、 TCPの輻輳制御がリンク特性の急激な変化に対して追従し、 提案した機構と戦略が、 移動体通信環境下におけるTCPの通信品質改善に有効であることが明らかになった。