ykoFEDC−ykoGH遺伝子間領域の転写制御機構の解析
楠屋 陽子 (0451132)
生物にとって転写すべき遺伝子の選択は、環境の変化に対応した遺伝子の発現制御を行うためにきわめて重要である。原核生物の転写制御の様式と機構は多種多様であり、多くの例に関して、詳しい解析がなされてきた。その結果、転写制御機構を構成するトランスに働く制御因子、あるいはシスに機能する制御領域に関しての詳細な知見が得られている。しかし、複数の制御要素がゲノム上できわめて近接して機能する場合、それぞれの要素間の相互作用に関する解析は少ない。微生物ゲノムにおける遺伝子間領域は、植物あるいは動物ゲノムと大きく異なり、一般に狭い。この狭い領域に、複数の転写制御シグナルが配置され、様々な転写調節を行っている。特に2つの遺伝子の転写制御領域が重なって存在する場合、相互に影響を及ぼしあうことが推測される。
枯草菌のykoFEDCオペロンとykoGHオペロンの間の非コード配列(310bp)には、thiamine生成物の取り込みに関与するABCトランスポーター遺伝子ykoFEDCおよび機能未知2成分制御系遺伝子ykoGHの転写制御領域である。この領域には双方の遺伝子に対するオペレーターおよびプロモーター、さらに、ykoFEDCを制御するTPP riboswitchを含んでいる。このような、限定された領域に存在する複数の発現制御シグナルが、独立、あるいは協調して働いているということを明らかにすることは興味深い。そこで、in vivo,in vitroにおいてykoFEDC-ykoGH遺伝子間領域に存在する複数の転写制御要素の解析を行い、転写制御機構の相互作用に関する知見を得ることを試みた。
@in vivo においてykoFEDC遺伝子の上流にはTPP riboswitchが存在することを明らかにした。
AykoGHの発現条件は不明だが、プロモーターはTPP riboswitchの領域上に位置することが示された。
BTPP riboswitchの抑制を解除し、ykoFEDCおよびykoGH遺伝子の転写の促進が起こる変異株を得た。
Cin vitro においてレスポンスレギュレーターYkoGがTPP riboswitchの領域に結合することを示した。
本解析結果から、TPP riboswitch による転写制御と、転写制御因子による転写制御が相互作用する可能性について議論したい。
0451132 mthesis