題目

森 康充 (0451115)


ブラインド音源分離(BSS)とは,複数の音源信号が混合されて観測された場合に,観測信号のみを用いて特定の音源信号を推定する技術である. しかし,従来の BSS 手法では,分離性能の向上と分離音の歪の少なさはトレードオフの関係にあり,歪を低く保とうとすれば分離性能を大きく引き上げることは不可能であった. また,処理の高速性と分離性能の間にもトレードオフの関係があり,分離性能を向上しようとすればリアルタイムで分離動作を行うことは難しいことが知られている.

そこで,近年提案されている,独立成分分析(ICA)に基づく BSS の拡張の一種である Single-Input Multiple-Output (SIMO) モデルに基づく ICA (SIMO-ICA) と,SIMO モデルに基づくバイナリマスクを組み合わせた,新しい 2 段 BSS アルゴリズムを提案する. SIMO-ICA により,混合信号をモノラル信号ではなく,マイクロホン時点での独立な SIMO モデルに基づく信号に分離することができる. 分離音は各音源信号の空間特性を保っているため,SIMO-ICA の出力に含まれる分離誤差成分を,新しく導入する SIMO モデルに基づくバイナリマスクを適用することで効果的に除去が可能である. 実験結果より,提案法が分離性能においても歪の評価においても従来法と比べて優れていることが示された. また,実際にリアルタイム動作する小型 BSS モジュールを製作し,提案法が分離性能を高く保ったままリアルタイムに動作することを確かめた.