アクチンフィラメントによる糸状仮足伸長メカニズムのアクチン濃度依存性

深田智史 (0451103)


神経軸索先端部の成長円錐に存在する糸状仮足の伸長は、細胞内アクチンフィラメントによって引き起こされる。
アクチンフィラメントによる膜移動のモデルには、Elastic Brownian Ratchet (EBR)モデルと、その対立モデルで
あるLock, Load, & Fire (LLF)モデルがあるが、どちらが正しいかは分かっていない。
本研究では、アクチンフィラメント形成のアクチンの濃度に対する依存性という観点から、両モデルを検証した。
まず、シミュレーションにより、それぞれのモデルのアクチン濃度特性を考察した結果について発表する。
EBRモデルでは、アクチン濃度の変化に対してアクチンフィラメントの形成速度が敏感に変わるが、LLFモデルで
はアクチン濃度特性があまり見られないことが示された。
続いて、糸状仮足の実画像の解析と、実画像とシミュレーションの比較方法について述べる。
実画像とシミュレーションとを比較した結果、細胞膜を押すには、一本のアクチンフィラメントの力では不足で、
複数のアクチンフィラメントによる力が必要であることが示された。EBRモデルはLLFモデルに比べて、障害物
を押す力が微力であると批判されているが、本研究の結果から、むしろその微力さが、糸状仮足の軌跡を説明す
るためには適切であると言えることがわかった。
以上から、成長円錐の糸状仮足では、EBRモデルの方が実験データの再現性という点で優れていると言える。