人間の歩行・転倒回避メカニズムの理解のためのCPG位相に注目したアプローチ

門脇 千智(0451039)


 本研究では,外乱や環境変化に対して表れる転倒回避動作や現象について,計測・実験による解析と,工学的な再現による検証の2方向からアプローチを行い,転倒回避のメカニズムの理解を目指す. 計測では,特に歩行の位相に注目して解析を行なう.実機によって有効性が示されている脚接地時の位相リセットの考えに基づき,人間の脚接地時における位相反応曲線により,脚接地位相に対する位相変位量の依存について調べる.また,一方で強化学習を用いて,2足歩行ロボットモデルの望ましい位相反応曲線を自律的に獲得する手法を提案し,数値シミュレーションによって手法の有効性について検証する.更に,ロボットの躓き時に人間に観察される転倒回避の動作を導入し,その動作の歩行の安定化への影響を検証する.また,小型のヒューマノイドロボットに対し,実験的に作成した位相反応曲線を用いた歩行実験を行い,2次元平面状に拘束されない系に関しても位相反応曲線が有効であることを示す. 本論文では,計測と数値シミュレーションの結果から,人間の歩行において脚接地時の位相リセットが観察されること,位相リセットと転倒回避Strategyが外乱等による動揺からの回復に影響していることが確認できた. また,強化学習による位相反応曲線の設計の有効性を示した. 計測実験による解析と工学的手法による歩行・転倒回避動作の再現の双方から得られる知見の融合により,人間の生活とロボット技術の双方の発展が見込める.ロボットによって,計測から得られた人間の歩行・転倒回避動作を工学的に実現することで,転倒回避が不可能な状況・可能な状況に関する詳細な解析が行える.ここから得られる知見は転倒回避策を講じる上で有効であると考えられる.また,人間の歩行・転倒回避動作の理解により,ロボットの環境変化・外乱に対し柔軟な2足歩行の生成技術の開発が期待される.