最小誤差緩和逆フィルタによるマルチチャネル音場再現
開原 雄介 (0451033)
マルチチャネル音場再現とは,複数のラウドスピーカと,再現を行う室内の伝達特性を打ち消す
逆フィルタを用いる事で,任意の制御点に所望の信号を再現することができるシステムである.
しかし,実環境においては室内伝達特性は様々な要因により容易に変動してしまうため,
固定係数の逆フィルタで音場再現を行った場合,伝達関数の変動に応じて再現音は劣化する.
この問題に対する従来手法として,打ち切り特異値分解による逆フィルタの
オンライン緩和処理(On-line Adaptive TSVD)が提案されている.
しかしこの手法は,背景ノイズの拡大を抑える代わりに再現精度が低下するという問題がある.
またオンライン適応のアルゴリズムにおいて,一度緩和のためにランク数を減らすと,
元に戻すことができないという欠点も存在する.
本発表ではこれらの問題を解決するため,不安定性を緩和できる条件数を設定し,
その条件の下でMoore-Penrose型一般逆行列からの距離を最小にする新しい逆フィルタの緩和手法を提案する.
そして,緩和の度合いを決定する処理を柔軟に行えるように,オンライン適応アルゴリズムを改良した.
実環境データを用いたシミュレーション実験の結果,複数の伝達系の変動に対し,
提案手法が従来手法よりも高い再現精度を示すことがわかった.
また伝達系が連続して変化した場合も,再適応可能であることがわかった.
最後に主観評価実験の結果から,従来手法よりも提案手法の方がより忠実に
原信号を再現していることが分かった.