枯草菌ゲノム上のDnaA蛋白質結合配列の網羅的な探索

大津 邦裕 (0451023)


 DnaA蛋白質はゲノム複製の開始点oriCに存在する9塩基対からなる配列DnaA boxを認識して, 染色体複製を促している.一方で,遺伝子のプロモーター領域にDnaA boxが存在し, そこに結合したDnaA蛋白質がその下流に位置する遺伝子の転写を制御している事も知られている. DnaA boxのコンセンサス配列は"TTATCCACA"であるが,DnaA蛋白質はDnaA boxが一塩基対異なって いても結合する事が実験的に証明されている.そうしたDnaA boxと一塩基違いの配列は 枯草菌ゲノム配列上に1,123箇所も存在し,枯草菌ゲノム上にDnaA結合部位がどのように 分布しているかを実験的に検証するのは困難である.

 本研究では,枯草菌ゲノム上のDnaA結合領域を,2つの方法で計算機を使い抽出する事を試みた. まず,遺伝子間領域に保存されているDnaA boxを,枯草菌と近縁種のゲノム配列に基づき, Phylogenetic Footprinting法によって比較解析し,既知の8箇所に加えて,新たに14箇所を予測する事が出来た. 次に,DnaA boxがクラスタを形成するとDnaA蛋白質がより強く結合するという実験結果に基づき,そうした領域を抽出したところ,さらに8箇所を予測する事が出来た.

 このようにしてDnaA蛋白質が結合する可能性が予測された計22箇所の領域について, ゲルシフトアッセイによって,実際にDnaA蛋白質が結合するかを検証したところ,新たにywcI vprとgcp ydiF領域に結合することが明確に示され, 加えて,10箇所の領域にも結合する可能性が示された.また,ywcI vprとgcp ydiF領域のDnaA boxはともに近縁種のゲノム配列にも保存されていた.

 こうした結果に基づき,枯草菌ゲノム上でのDnaA結合領域の分布とその役割について考察する.