知識協創の成功例としてApacheやMozillaなどのオープンソースソフトウェア (OSS) コミュニティが近年注目を集める一方,大規模なOSSコミュニティでは,大多数のOSSプロジェクトが開発過程で生じた問題を解決するための知識や開発協力者を十分に得ることができず,プロジェクトの停滞や失敗に陥っていることはあまり知られていない.本論文ではまず,大規模OSSコミュニティを分析し,(1)大規模コミュニティの組織構造,(2)開発者確保の限界,(3)スケールフリーネットワークの性質を有する開発者間の社会的関係が,大規模OSSコミュニティ内での知識共創を阻害する原因であることを特定した.次に,この問題を解決し大規模OSSコミュニティにおけるプロジェクト横断型知識協創を支援するためのコミュニケーション機構を提案し支援システム (D-SNS) として実装をおこなった.大規模OSSコミュニティの実データ(9万件のプロジェクトに含まれる16万人の開発者らによる123万件のコミュニケーションログ)を利用しシミュレーションにより提案機構の有効性を評価した結果,スケールフリー性を軽減しつつ開発者間の社会的関係の構築が促進されることが確認され,提案機構がプロジェクト横断型知識協創支援に有効であることを示すことができた.