手首の構造モデルを用いた脈動再現シミュレータの作成

上田知生 (0451016)


脈診は医師や看護師を含む医療スタッフが身につけるべき基本手技であり、現状 では医学生がお互いに脈診し合うことによって習得する。一方、不整脈などの整 脈以外の症例については、医学書や熟練スタッフからの口頭による説明・解説か ら学習することが多い。しかし、この方法では、学習者は習熟すべき脈を体感す ることができないため、実際の脈診を通してその力覚の違いを経験的に学ばざる を得ない。また、患者自身や介護者が予備的にでも不整脈などを察知できれば早 急な処置が可能になるかも知れないが、その感覚を体験できる機会はほとんどな い。このように現状では、脈診において様々な症例とその感覚を習熟できる機会 は極めて少ない。

本研究では、脈診の習熟環境の提供を目的として、腕の構造モデルを用いた脈動 再現シミュレータの開発を目的とする。人体の断層画像集合から手首の力学構造 モデルを構築し、脈派データから脈診の際に指先で感じられるべき力を弾性理論 に基づいてシミュレートする。力覚提示デバイスを通して導出した力を提示する ことによって、訓練者が脈を体感できるVR(Virtual Reality)システムを構築 する。

これまでの医療手技訓練システムとは異なり、本研究では手首の複雑な解剖学的 構造を考慮したモデルを構築し、脈診の際の指の押し込みに対する反力の変化を 高精度にシミュレートする。また、従来のVRシミュレータにおける人体・臓器モ デルはその精度に関する定量的な評価がなされていないものがほとんどである。 本研究では、圧センサを用いてヒトの手首の脈を実測することにより、モデルパ ラメータを取得し、シミュレーション精度を検証する。

幾つかの機能評価及び試用試験の結果、開発システムはヒトの脈を高精度かつ実 時間で再現でき、計算結果を力覚情報として提示できることが分かった。また、 力覚提示デバイスに関する問題点やシステムの改善点が示唆された。システムの さらなる改良と症例数の増加により、構築システムが医学教育における体感型の 手技習熟環境として、また患者自身、介護従事者の基礎知識の習熟環境として用 いられることを期待する。