環境オブザーバを用いた遠隔操作システムの開発

井上照将(0451013)


 マニピュレータの遠隔操作システムとは,遠隔地にあるマニピュレータに操作者が通信を介して指令を与えることにより作業を行うシステムである. 遠隔操作システムを用いれば,宇宙空間や深海,原子力施設などの人間が直接行くことが困難な遠隔地で作業を行うことができる.
 遠隔操作システムを実現できるシステムの一つとしてマスタ・スレーブシステムがある. このシステムは遠隔地と操作側のシステムにそれぞれマニピュレータが用いられている. 操作者が操縦側のシステム(マスタシステム)を動かすことで動作指令を行い, 遠隔地のシステム(スレーブシステム)がマスタシステムから受信した動作指令に従うことで作業を行う. マスタ・スレーブシステムではマスタシステムとスレーブシステムそれぞれの動作が対応するため,操作者は直接スレーブシステムを動かすような操作感を得られる. さらに,スレーブシステムが状態や作業環境との干渉力をマスタシステムに伝えるバイラテラル制御を行えば,操作者はスレーブシステムの状態を知ることができ有用である. しかし,対称型や力帰還型のような従来のバイラテラル制御を遠隔操作に用いた場合, マスタシステムとスレーブシステム間で伝えられる情報に通信時間による時間遅れが発生し, システムが不安定になることが知られている. 遠隔操作システムにおいて,バイラテラル制御は本来の目的であるマスタシステムとスレーブシステムの位置・力追従制御に加えて,通信時間に対する安定性の補償を行う事が望まれる.
 本論文では環境オブザーバを用いた遠隔操作システムを提案する. この手法は操作者が時間遅れ補償を行うことで安定となるハイブリッド制御則を用いたマニピュレータの遠隔操作システムを拡張したものである. 提案手法では作業環境がモデル化され,モデルのパラメータを推定する環境オブザーバが組み込まれている. マスタシステムが環境オブザーバの推定値を基に仮想的な作業環境を提示することで, 提案手法は高い位置・力追従性を実現している. 提案手法を汎用マニピュレータに実装し,通信時間が大きい環境で固定壁面押し付け作業を行うことにより提案手法の有効性を示す.