歩行における足底滑り計測に基づく弾性接触モデルの提案と検証

大林 正明(0351029)


人間の歩行は優れた制御の上に成り立っている. 人間は歩行時の路面の摩擦係数の違いを知覚し, その歩行を安定化するのに力制御を行っていると言われている. これまで滑り路面での歩行変更に関する研究が行われてきた. しかし, 歩行時の触覚情報に着目した検討はなされていない. 一方, 皮膚のように弾性を有する物体と把持物体との接触面で局所的に生じる滑り(初期滑り) に起因する皮膚変形の計測から指先触覚の具体的なメカニズムを実験的解析的に検証している. 人間の足底触覚と歩行時の力制御においても同様のメカニズムで摩擦係数を知覚し力制御しているとしたら,足底の皮膚変形とバランス制御力との間には明確な相関があると考えられる.

そこで本研究では,人間の足底触覚のメカニズムを解明するため,歩行路面と足底で発生する滑りに着目する. 人間の歩行時の足底面皮膚変形を計測可能な装置を開発し,実際に足底面においても初期滑りが発生することを確認した. また,触覚応答と等価な皮膚内応力計算に必要な弾性接触モデルの妥当性を検証するため,滑りに対する安全度を表すスカラーパラメータの一つである滑り余裕を推定することで本モデルの妥当性を確認する. 踵の滑り余裕推定精度はいずれも3%程度の誤差で推定が行なえ,踵弾性球モデルの妥当性が示された. 一方,爪先の滑り余裕推定ではいずれも足指接触を伴い, 推定誤差が増大する. そのため,爪先の滑り余裕推定手法における計算式と実験データから導出できる実験式の比較を行い,実験式の導出に最小二乗法を用いることで最適なパラメータを決定した. さらに,滑り計測の有益なデータを用いることで足底触覚による滑り知覚の可能性を検証する.

以上により, 安定な二足歩行ロボットの制御指針が得られるだけでなく,足底触覚情報を利用した滑り安定な義足の開発,リハビリテーションにも役立つと考えられる.